文責:下田
本日は、2年生が夏休みの課題であるケーススタディを発表しました。
ケーススタディとは、ゼミ生それぞれが大きなテーマの中から担当分野を割り振りし、いろんなケースに分けて研究をすることを指します。皆で協力して一つのテーマの様々な要素を研究し、通年最後の最終レポートで大きなゼミテーマに取り組むための情報を共有します。
今年のゼミテーマは「アメリカのグランド・ストラテジーと国際秩序の変容」ですので、アメリカの国家戦略とその変容、今回は2006年以降2008,9年前後のアメリカの政策の変化をケーススタディのメインテーマとし、それぞれが担当分野でレポートをつくり発表を行いました。これは2年生の課題なので、発表者は5期生の12人です。
<発表順> *右の( )内は事前に割り振りした各分野です。
① 池田(イラン、オーストラリア)
② 刘(中国・軍事、中国・経済)
③ 沼倉(イラク、中東和平)
④ 御領原(インド、国家安全保障)
⑤ 渡野辺(貿易政策、ロシア)
⑥ 廣田(韓国、援助政策)
*次の授業で残り6人は発表
発表分をそのまま載せると量が多いため、要約して掲載します。
①池田 担当分野:対イラン政策、対オーストラリア政策
○イランの核開発に対する制裁対象の変化
2007年から2010年にかけては米国自国のみでの対イラン経済制裁を展開
当初は国営セパ銀行に対する制裁のみだったが、後に米国内企業に制裁を求めたり、制裁対象を他銀行や軍需産業へ広げたりするようになる
↓
2011年からは、米国のみならず英国やカナダなど、その他外国にも共同で国際的な対イラン経済制裁を展開するようになる
○対オーストラリアの軍事・安全保障政策
2011年11月、オバマ大統領はアメリカの海兵隊を北部ダーウィンの基地へ派遣する方針を発表。「北部ダーウィンをアジアにおける米軍の新たな中心地とする」
→米軍のアジアにおける軍事の中心地がオーストラリアに移動
<理由>
中国の海軍能力の増強という問題に直面し、東西冷戦時代の主に北東アジア、欧州の北半球からアジア・太平洋へ戦略的な重要性がシフトしているため
②刘 担当分野:対中国の軍事政策、経済政策
(後日記載致します)
③沼倉 担当分野:対イラク政策、中東和平
○対イラク政策
・ブッシュ政権時
イラク戦争が開戦。占領統治、国家復興の局面へ
その後、2007年にイラクの米兵の増派、米軍駐留を続ける方針を示す
<一方民主党は早期撤退を求める>
2008年 イラクと協定を結ぶ
2009年に都市部から戦闘部隊の撤退
2011年末までにイラク全土から完全撤退
・オバマ政権時
イラクからの撤退を公約
対テロ戦の主戦場をイラクからアフガニスタンへ移行する考え
2009年 イラク戦争終結に向けて作業に取り掛かると宣言
2011年 イラクから完全撤退=イラク戦争が終結
まとめ
ブッシュ大統領による撤退の動きはなかったが、オバマ政権では一転して撤退が大きく進む
アメリカの対イラク外交は大統領によってその政策が変化したと言える
○中東和平(イスラエル・パレスチナ問題)
ブッシュ政権 | オバマ政権 |
・イスラエル寄りの政策・二国家解決を目指す
・和平交渉に失敗 |
・両国に働きかけることを目指す・二国家解決を目指す
・和平交渉再開に失敗している |
ブッシュ政権とオバマ政権でイスラエル・パレスチナ問題への姿勢は異なっていたが、結果としてはどちらも成功していない
政権による大きな変化はなかったと言える
④御領原 担当分野:対インド政策、国家安全保障
○対インド政策
・米印原子力協定
従来、NPT(核不拡散条約)に加盟しないインドとの原子力協定は禁止されていた
しかし、2005年にそれまでの方針を転換。2007年に米印原子力協定を締結
<政治的要因>
同時多発テロ後、「テロ」の脅威に対して、インドとパキスタンの関係に介入する必要があった。
インドとパキスタンの間においてカシミール問題があり、アメリカの介入がなければ、印パによるテロ戦争に発展する可能性があった。
<経済的要因>
近年、7~9パーセントの経済成長を遂げるインドの存在と、同様に2000年以降、ほぼ2ケタの経済成長率を遂げる中国の存在
インド、中国はともに急激な経済的成長期にあり、中国に対抗するため、インドと戦略的パートナーとする思惑がある
・オバマ大統領による対インド政策
2008年のリーマンショック後、アメリカ経済が大きく疲弊している中で、オバマ大統領は対印政策を修正させていく必要があった。
1つ目に経済協力。2008年の米印貿易総額は約400億ドルで、アメリカは3~4年後には1000億ドルを目指している。
2つ目に政治面でのもインドの支持。具体的には国連安全保障常任理事国入りの支持を表明したこと。
オバマ政権で見られるのは、特に経済・貿易協力が特に目立った。
アメリカに充満している不況の波をインドとの連携を高めることで打開しようとする動きが見られる。また中国の存在も米印外交に影響を与えている。
.
○国家安全保障
・ブッシュ大統領は安全保障戦略に対して単独主義であったと言える。
具体的には、テロなどの脅威に対する先制攻撃、対テロに対して軍事行動で抑え込むといった強硬的で単独的な方針が見られた。
ブッシュ政権の単独主義的な武力行使、特にイラク戦争はアメリカ国内における支持率の低下だけでなく、国際社会から厳しい批判を浴びた。
・ 一方でオバマ大統領は多国間主義であり、大きな転換が見られた。
敵対国家に対して単なる武力行使を行う前政権とは異なり、平和的で多国間協調体制の構築が見られる。
≪要因≫
(現段階ではあくまで分析)
1.アメリカのイラク戦争への武力行使に対して世界からの批判
2. 国内世論の支持率低下
3.単独主義では国際秩序の安定を維持することは不可能
.
.
⑤渡野辺 担当分野:貿易政策、対ロシア政策
○貿易政策
・一般的な貿易政策の変化
大統領の変化と金融危機の影響で、2009年の初めごろから輸出重視が鮮明に。またオバマ大統領はドーハラウンドの進展の重視を言明。
・対中貿易政策
対中政策に関してはここ数年大きな変化はなく、一貫して*デュアルトラックアプローチを用いている。
*中国に対して柔軟な対話と強硬な通商救済措置を使い分けて政策を行うこと
・TPP政策
米国は2009年にTPP参加表明をした。2012年現在も交渉は継続中。
.
○対ロシア政策
大統領の変化に伴い、対ロシア政策は強硬な姿勢から柔軟な姿勢に変化。
・ブッシュ政権は強硬な姿勢
→東欧ミサイル防衛構想、グルジア紛争
<米ロ関係は悪化>
・オバマ政権は柔軟な姿勢
→新STARTの調印、迎撃ミサイル配備の計画の見直し
<米ロ関係は回復>
.
.
⑥廣田 担当分野:援助政策、対韓国政策
○援助政策
・援助政策の弱体化
2009年、発足した当初のオバマ政権は、国際協調路線の基本的考え方の下で、対外援助を国防、外交とならぶ米国の対外政策の柱の一つであると表明
↕しかし…
2011年に政府支出の削減の影響で対外援助は大規模な減額が行われ、その減額に合わせて援助の目的や内容を根幹から変える動きも目立ってきた。
その一例として、中東諸国の民主化への激動による「アラブの春」を推進するための巨額の経済援助計画が削減のために阻まれた。
オバマ政権は、援助政策は米国の安全保障上重要であると見なしているため、この対外援助の大規模な減額は米国の安全保障に重大な被害を及ぼし、米国の世界的リーダーシップにも損害を与える措置だと考えられる。
・援助手法の変化
ブッシュ大統領の質よりも量の政策から、オバマ政権では量より質を重視する政策が展開される
.
○対韓国政策
1953年以降、米韓は韓国軍の兵力増強を目指してきたが、2004年からは一転して在韓米軍の規模を縮小し続けている。
<理由>
1つ目は、韓国軍は経済成長を背景に北朝鮮の通常兵器による攻撃から国土を守る十分な力を持っている、と判断したため
2つ目は、米軍を韓国から撤退させ、イラクへ送り込むなど中東政策に人員が必要となったため
在韓米軍を縮小させてはいるが、北朝鮮の核開発やミサイルの脅威に対応するため「包括的で統合された防衛」を強化、米韓の大規模な合同軍事演習を開催するなど、北朝鮮に対応するために韓国と連携していることは変わっていない。